近年ではSaaS(Software as a Service)において月単位などで定額を支払うサブスクリプションモデルが増加していますが、売上額を増やしたりチャーンレート(解約率)を下げるための施策として『オンボーディング』が重要になります。
オンボーディングはカスタマーサクセス(CS)の中で顧客ライフサイクルのフェーズの一つになりますが、SaaSなどのWebマーケティングにおいて今後より重要視される要素になりますので、カスタマーサクセスにこれから携わる方に限らず、マーケティング関連の業務をしている方も知っておくといいでしょう。
- そもそもオンボーディングとは何か?
- オンボーディングで顧客(カスタマー)にどうアプローチするか?
- オンボーディングで成功するためのポイント
オンボーディングの基本や成功までの手順・考え方について、一通り解説いたします!
オンボーディングとは?|SaaSなどのサービス導入・お試し的な期間
まずはオンボーディング(on-boarding)に関する意味ですが、オンボード(on-board)と飛行機や船に乗るニュアンスから様々な使い方がされています。
研修的な意味合いのオンボーディング
一般的な意味では新人研修に関する用語で、企業やチームに新しく入ってきたメンバーに対するサポートや研修についてオンボーディングと言います。欧米では割と浸透している言葉で、新入社員に関する研修ミーティングで『今日は〜時からオンボーディングの予定』ですみたいな感じで使いますね。
目的としては、少しでも早くチームの一員として戦力になってもらう・慣れてもらうための仕組みづくりであり、早期離職などを防ぐためのサポートと言えます。
SaaSビジネス・カスタマーサクセスとしてのオンボーディング
毎月継続してサービスを使ってもらいたいSaaSや、顧客の満足度・成功体験に貢献するカスタマーサクセスにとってのオンボーディングでは、ユーザーに対してサービスの内容や機能を説明する段階や、フリープランなどで体験してもらうお試し期間のサポートを意味します。
- 初回利用・フリープランを使って導入できると思わせる
- 本格的な導入に向けて、分かりやすいマニュアルを揃える
- 導入事例やセミナーなど参考になる情報を届ける
など、サービスを本格的に使うまでの期間で、いかにユーザーをサポートして顧客満足度を上げるかがオンボーディングでの施策目的になりますね。
オンボーディングの施策を怠るとSaaSビジネスの効率が悪くなる
そのため、以下でも詳しく説明していますがオンボーディングでユーザーへのサポートを怠ると、フリープランでの解約率(チャーンレート)が高くなったり、ユーザーの満足度・継続率が下がるなど様々な悪影響が考えられます。
SaaSビジネスではショット(単発)での売上でなく、継続的な利用・ユーザーにとっての利益創出が重要になるため、サービスを売って終わりでなく継続的に満足してもらうための施策が大事ですね。
オンボーディングの施策種類|3種類のアプローチ
実際にオンボーディングの期間にて、顧客へどうサポート・アプローチしていくかをご紹介します。
時間と作業工数・予算さえあれば、全てのユーザーに向けて個別の導入支援やコンサルティングサポートなど手厚くするのが確実なやり方ですが、カスタマーサクセスの業務領域において効率よく全てのユーザーをカバーする方法が求められます。
ですので売上規模や企業の価値によって、以下のような3種類の分法でアプローチのやり方を使い分けるのが基本的な施策ですね。
- ハイタッチ|大口の顧客(ロイヤルカスタマー)向けの支援
- ロータッチ|ユーザーとの接触回数をある程度確保
- テックタッチ|Web上のコンテンツやメールなどで広範囲・効率的なフォロー
オンボーディングのハイタッチ
ハイタッチは、サービス導入企業の規模や見込まれるLTV(トータルの売上)が大きいユーザー・カスタマーが対象になります。いわゆるロイヤルカスタマーとも位置付けられる企業で、大口顧客になるため専任の営業やカスタマーサクセス担当者がつきます。
ハイタッチでの代表的な施策
- 定期的な企業訪問・SaaSサービスなどの導入支援
- 社内勉強会・説明会の開催
- コンサルティングに近いサポート
大手企業だと社内稟議や多くの従業員に対する説明・研修など時間がかかる要素があるため、長期的なサポート支援が求められます。
オンボーディングのロータッチ
一方でロータッチではハイタッチほど手厚いサポートにならないものの、ユーザーとのタッチポイントを増やしたりSaaSサービスの導入や活用に役立つための情報配信が重要となります。
ロータッチでの代表的な施策
- 定期的な説明会・オンラインセミナーの開催
- 導入事例・成功事例を共有するコミュニティの活用
- リード(見込み客)への架電・定期的なヒアリング
売上的にはハイタッチのユーザーと比べると優先度は下がりますが、それでも幅広いサポートや個別での対応・関係性の構築など重要な要素がありますので、ハイタッチと併用したアプローチが必要となるでしょう。
オンボーディングのテックタッチ
それと、オンボーディング期のカスタマーサクセスを成功するためには、顧客想定数が最も多くなるテックタッチの対応も大事ですね。
売上・LTVこそ一社あたりは少なくなりますが、テクノロジー・コンテンツを活用して幅広い多数のユーザーへSaaSサービスの導入支援を進めないと、チャーンレートの悪化など懸念点が増えるでしょう。
テックタッチでの代表的な施策
- Webサイト上にてマニュアル配布
- メールマガジン(ステップメール)でお役立ち情報の配信
- FAQコンテンツで問題解決
テックタッチでは、サービス運営側からプッシュするよりプル型での導入・活用支援を目指しており、コンテンツやマニュアルを通してよりSaaSサービスを使いこなしていただくのが理想のカスタマーサクセスですね。
オンボーディングに関するカスタマーサクセスの職種・役割
オンボーディングは営業職やマーケティング職などの要素もありますが、基本的にはカスタマーサクセスの部門が中心になって業務を進めます。
カスタマーサクセスは日本国内ではまだそれほど浸透していない職種・役割であるため、基本的には以下のような業務を経験されている方が社内からカスタマーサクセスへ参画されるか、新たなに中途採用からアサインされるケースが多いですね。
- 営業経験者(顧客交渉力・コンサルタントなどのスキル)
- マーケティング経験者(コンテンツ制作・顧客分析など)
- カスタマーサポート経験者(既存顧客との対応力)
関連したり活かせるスキルがある職種経験者であれば、カスタマーサクセスの仕事も比較的理解でき、オンボーディングのユーザーサポートにも対応できるでしょう。
企業によって肩書きは様々なですが、一般的にはカスタマーサクセスマネージャーやカスタマーマーケティングなどの言い方がされますね。
マーケター・ライターは今後カスタマーサクセス領域で需要のある人材に
私個人の経歴を例に挙げると、WebマーケターやライターのほかSEOコンサルティングの経験があったのですが、2021年よりカスタマーサクセスチームへ転職・参画しました。
いわゆるSaaS系のビジネスモデルで、契約数だけでなくLTVやチャーンレートの改善をミッションに、Webコンテンツの企画やマニュアル・資料制作などを中心に対応しています。
また、カスタマーサクセスなどIT・Web業界への転職を希望されている方は、ワークポートなど実績のある転職エージェントに相談してみるのもいいですね。これまでの職務経歴からカスタマーサクセスなど活かせるポジションについて、エージェントから客観的に見てもらうといいでしょう。
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オンボーディングで確認するべき目標指標(KPI)
オンボーディングの業務・役割において達成するべき目標(KPI)も確認しておきましょう。
広告やSEOなどを手法に集客するマーケティングはCV数やCPA(獲得単価)が重視されますが、カスタマーサクセスとしての目標だと、いかに顧客満足度を上げるがが大事になるため関連する数字を追うことになりますね。
顧客最大価値(LTV)を増やす
サブスクリプション(月ごとの定額料金制)モデルになっているSaaSでは、いかに継続的に使ってもらうかが一つのポイントなり、1年・2年とより長く契約継続してもらうことで、LTVの向上につながります。
したがって、オンボーディングでより多くのユーザーがサービスを使いやすく、活用もしやすい環境を整える施策が大事になります。
チャーンレート(解約率)の低下
LTVと関連して、カスタマーサクセスでは解約率を下げることもKPIの一つです。サービス内容・機能面で満足しなかったり、適切なマニュアルがないとか営業からのサポートが不足しているなどもチャーン理由でよくあります。
アップセル・クロスセル(顧客単価の引き上げ)
オンボーディングから後の段階になりますが、サービス導入したユーザー側が『追加で欲しい機能がある』とか『もっと上のグレードで活用したい』などの要望でアップセル・クロスセルのニーズを高めることもカスタマーサクセスの目的となります。
ただ、営業から強引に『この新機能がおすすめです!』と推奨するのではなく、各顧客の要求点や課題などをしっかりと対応した上で、テックタッチやハイタッチなど様々な手法でアップセル・クロスセルへの喚起を自然にさせるのが理想ですね。
オンボーディングを成功させるためのポイント
オンボーディングの施策内容な重要な理由など一通りご紹介しましたが、実際にカスタマーサクセスの業務を経験している個人的な観点も含めて、成功する上での重要なポイントをまとめました。
オンボーディング成功のためのポイント
- 継続利用(リテンション)においてストレスのないプロダクトであるか?
- カスタマーの属性やジャーニーマップなど分析できているか?
- オンボーディングの範囲(スコープ)を絞れているか?
- 営業やマーケティング、開発など別部門との連携体制が整っているか?
- スケール(拡大)を目的とした取り組みになっているか?
逆を言うと、オンボーディングで挫折しやすいカスタマーサクセスチームの傾向は以下の通りです。
オンボーディング失敗でよくあるケース
- 継続利用しづらく、UI・UX面で致命的な問題があるプロダクトである
- カスタマーの正しい属性・要望傾向が分析できていない
- オンボーディングの範囲を広げすぎて、担当者の負担が大きくなる
- 他部署との連携が不足しており、問題共有できていない
- 特定顧客の意見や要望ばかり参考にしてしまい、マクロ視点での対策が不十分になっている
一つ一つのポイントを確実に解消・クリアすることで、カスタマーサクセスとしてのオンボーディングが成功しやすくなります。
ただ、オンボーディングのサポート範囲や計画について過度に練ると、理想(目標)と現実の間に大きなギャップが生まれて、施策が中途半端に終わってしまう危惧もありますので、重要な対策内容を絞って徐々に展開していくのがいいでしょう。
※今回はオンボーディングに絞った記事でしたが、今後はカスタマーサクセス全体の施策や、需要が増えるであろうカスタマーサクセスの領域で求められるコンテンツ制作・ライターの業務なども別途ご紹介したいと思います。